小説

【短編小説/前編】「ひとり暮らしよりも実家にいた方がメリットが大きい」そんな美奈が手に入れた理想の生活とは?

2018/10/10

丸の内に本社を構える商社で働く-廣田美奈-が実家暮らしを続ける理由は3つ。

①家賃がかからない。
②ご飯が美味しすぎる。
③癒しの愛犬、ピコ。

まもなく20代後半になるが、彼氏もいない。しかし、そんな美奈がひとり暮らしを始めた理由とは?

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待ってました、ランチタイム!
ほらね、今日は私-廣田美奈-の好きな肉じゃがが入っている。朝ママが言ってたからなぁ。

木を基調とした温かみのある会社のカフェスペースで、持参したお弁当に入った大好物の肉じゃがを今日も楽しく食べている私。

「あれ、廣田お弁当じゃん!手作りか、さすがだなぁ」
と声をかけて去って行く先輩に、
「あ、これ私じゃなくて母親が作ったんです」とわざわざ訂正を述べたりはしない。

丸の内に本社を構える商社で働き始めて4年目。
実家は東京駅から1時間ほどの場所にあり、通勤に不便は全くない。

大学時代も、社会人になってからも、ひとり暮らしを選んでこなかった理由は3つある。

1つめ、家賃がかからない。(と言っても、少しはお金を入れてるよ?)
2つめ、実家のご飯がおいしすぎる。(お弁当を持参すれば、貯金もできる!)
3つめ、癒しの愛犬ピコ。トイプードル、2歳、女の子。

まもなく20代後半。彼氏もいない。
「実家暮らし」を卒業していないことへの焦りがないと言ったら嘘になるが、総合的に考えると、ひとり暮らしをするよりも実家にいた方がメリットが大きいのだ、たぶん……。

夜の東京は、人も街もキラキラになる。
恋の予感がするときは、なおさらだ。

今夜は、大学時代のサークル仲間、麻里の誘いで4対4合コン。
お酒を3杯も飲んだ頃には、最初の緊張した空気が解け、それぞれが個々に話しだしていた。

「美奈ちゃんって、あんまりお酒得意じゃないでしょ?」

内緒話をするようにそう言った悠太は、間違いなく私にとって「今日イチタイプ」だった。

「強いお酒は確かに苦手かも……」
「そっか。じゃあ、そんなに強くなくて美味しいお酒があるお店、教えてあげるよ」
さらりとした悠太の返事が、素敵に思えた。
じゃあ、二人での「次の約束」があるのかな? そんな予感に胸が高鳴る。

合コンの翌朝。
通勤途中の電車の中、スマホが震えた。麻里から4人のグループメッセージだった。

『みんな昨日はお疲れさまー!』
『麻里、幹事ありがとう!2次会も楽しかったね〜』

4人のメッセージのやりとりが軽快に続く。

昨夜は結局、悠太と連絡先交換はできずじまいだった。
門限があり、二軒目に行かずに先に抜けた私。連絡先交換のタイミングが見つけられないまま、帰路に着いてしまったのだ。
私以外の7人は、どうやら二軒目でバーへ行ったらしい。
ずいぶん盛り上がったみたいで、さすがに少し羨ましい。

少し寂しさを感じながら、みんなのメッセージを追っていると。

『ね、てかさ、私今度悠太くんとご飯の約束した』

麻里からのメッセージに、電車の中で「えっ」と声が漏れそうになる。

『まじ!麻里いい感じだったもんね〜』
『悠太くんって、二軒目で麻里の隣だった長身イケメンだよね?』
『麻里、女磨きした甲斐があったね!』

ちょっと待って、そうだったのー!?

(二軒目に行ってれば、私がデートの約束してたはずなのに……)と考えずにはいられない。

そこで私はふと思い出し、聞いてみた。
『麻里、そういえば昨日は遅くまで平気だったんだね?』

仲良し4人組の中で、私は実家暮らし、麻里はお姉さんと暮らしているという理由で、ひとり暮らしをしていない私たちはいつも二人だけで先に抜けるのが普通だった。
もちろん昨夜も私はそのつもりだったのだが、麻里は「2次会いくー!」と答えていて、不思議に思っていたのだ。

すぐに、麻里からの返信。

『そう!ついに私もひとり暮らし始めたから、これからは遅くまで付き合えるよ』

ちょっと。麻里もひとり暮らし始めてたわけ……。
麻里からのメッセージが続く。

『ひとり暮らし始めたら、お得に女磨きもできたから、美奈も始めてみたら?』

女磨き?え!家賃負担があるのに? どうしているの……

『麻里、どういうこと!詳しく聞きたい』私はすぐに返事をする。

恋と住まい、女磨きまで? ついこの前まで麻里は私と一緒の状況で、私はそれに安心していたというのに。気付かぬ間に置いて行かれているような気持ちになり、この満員電車の中で、身も心も押しつぶされそうだ。
ため息をつきながら、目を閉じると、(このままじゃダメだ……)という想いが膨らんでゆく。

すっと息を吸うと、麻里への個別メッセージの画面を開く。

『さっきの件!本当に詳しく聞きたいから、今夜二人で会えない?』

メッセージを送りホーム画面に戻ると、愛犬ピコが心配そうに私を見上げていた。

【後編に続く】

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